2017年3月17日(金)12時30分

【諸星大二郎特集・前編】伝奇コミック不朽の名作『暗黒神話』に超豪華な完全版が登場!奇才・諸星大二郎作品を今こそ読み直そう!

「歴代のジャンプ連載作家の中で“奇才”という言葉が最もふさわしいのは誰?」
――この質問に、筆頭で名前が挙がる一人が「諸星大二郎(もろほし・だいじろう)」先生だ。

‘74年に「週刊少年ジャンプ」(以下WJ)で連載された『妖怪ハンター』をはじめ、複数の連載作品で当時のジャンプ読者に大きなインパクトを与え、今も多くのファンから支持を集める諸星先生。手塚治虫先生からも激賞された独自の画風や世界観はまさに唯一無二で、今やマンガ界の巨匠のひとりに数えられる。

そんな諸星先生の代表作ともいえる『暗黒神話』の、超豪華な完全版が3月17日(金)に集英社から発売されるのをご存じだろうか。

『暗黒神話』完全版

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今なお輝きを失わない「伝奇コミックの金字塔」が生まれ変わる!

『暗黒神話』は、‘76年に連載された、WJ連載2作目となった作品。主人公の少年・山門武(やまと・たけし)が、幼いころに目撃した父の死の謎を追って日本全土をめぐる旅に身を投じ、自らに秘められた驚くべき宿命を知っていく壮大なストーリーが描かれる。

『暗黒神話』

縄文文化や出雲神話、インド哲学など、古代史にまつわる様々な謎を緻密なパズルのように組み合わせ、壮大な結末へと導くストーリー構成は、当時ジャンプ読者だった少年たちだけでなく、各界のクリエイターからも注目を集め、「伝奇コミックの金字塔」との呼び声も高い。

『暗黒神話』

今回の完全版に収録されるのは、WJ連載版に100ページもの加筆・修正を加えた、『暗黒神話 完全版』(’14~’15年「画楽.mag」(ホーム社)にて連載)をベースにしたもの。今回さらに手が加えられた部分もあり、まさに最新の『暗黒神話』となる。『暗黒神話 完全版』のコミックスは完全受注生産となっており、その時に「うっかり買い逃した!」というファンにとっても朗報だ。
装幀を担当するのは、ユニークさとこだわりに定評のある著名ブックデザイナー・祖父江慎さん。今回のデザインにあたっては、カバーやスリーブ以外にも、全体の紙質や印刷手法、書体やルビの大きさなど、本のあらゆる場所に祖父江さんのこだわりがフルに発揮されている。以下で注目のポイントをチェックしてみよう。

◆スリーブ

本をすっぽり覆うスリーブは、外側にムラのあるメタリック紙、芯になる真っ黒な板紙、真っ赤な内紙の3枚の紙を合体させた「3枚合紙」の豪華な作り! 表側には主人公の武が描かれているが、そこには宇宙図や謎の文様(文字?)が重ねあわされ、1冊の本が宇宙と、物語を包み込んでいるようなイメージを想起させる。また謎の文様の部分は切り抜かれており、本を抜くと内側の赤い紙によってその文様の形がはっきりと識別できる工夫も。内側に銀のインクで古事記の一文が印刷されているのも見逃せないポイントだ。

『暗黒神話』完全版

左が本体、右がスリーブ。スリーブから本体を抜くと謎の文様が赤く浮かび上がる! この正体は、諸星大二郎先生と、装幀を手掛けた祖父江慎さんの対談記事(後日公開予定)で明らかに!!

◆本体

本体はいわゆる「上製本」で、本の背側の一部にクロス(布)が貼られたハードカバー。クロス部分には箔押しでシンプルに書名と作者が記され、表紙側にはヤマトタケルが描かれたレリーフが、銀と白のインクで印刷されている。中身の背の天地に貼られた金の花布(はなぎれ)や、真っ赤なスピン(しおりとして使える紐)もついており、マンガのコミックスとは思えない豪華な作りになっている。

『暗黒神話』完全版

マンガ部分も、現実と心象世界が交差する『暗黒神話』の内容に合わせて、現実を表す「黒」と心象世界を表す「銀」の2色のインクを章や場面に応じて同じページ内で使い分ける「一見モノクロ印刷なのに、実は2色印刷」という特殊印刷を採用。

『暗黒神話』完全版

後半のクライマックスページでは、黒い紙に表紙と同様の銀と白インクを使う特殊印刷が使われており、諸星ファンはもちろん、特殊印刷マニア(?)必見の仕様となっている。

上記のほかにも、唐突に挟み込まれた怪しげな紙など、マンガの内容に合わせて本のあらゆる部分に祖父江マジックが炸裂している。さらに詳しい仕掛けの解説は、本記事の後編となる諸星先生と祖父江さんの対談で明らかにされる予定!! こちらは近日公開予定なので、ぜひ楽しみにしてほしい。

2017年から諸星作品が続々デジタル化! 読み直すなら今!

2017年からは、集英社から発売されている諸星先生の作品のデジタル化もスタート。現在のところ『妖怪ハンター』を含む6作品がデジタル化され、手軽に諸星作品を楽しめるようになっている。
以下では諸星先生をよく知らないという人に向け、先生の簡単な歩みと、その作品の魅力を紹介! この機会に、ぜひ諸星先生の作品に触れてみてほしい!

◆配信中の6作品を、以下で試し読み!

手塚賞に入選し“’74年漫画界最大の新人”としてWJに現れた“異界”の描き手

諸星先生が漫画家としてのキャリアをスタートさせたのは1970年。雑誌「COM」(虫プロ商事)に投稿した『硬貨を入れてからボタンを押してください』が評価され、続いて同誌に投稿し月例新人入選作として掲載された『ジュン子・恐喝』でデビューを果たす。
その後は、『現代間引考』、『不安の立像』といった短編を発表しつつ本格的な作家活動に入り、’74年の第7回手塚賞に応募した『生物都市』が入選を獲得。ここからWJでの活動がスタートする。

'74年の第7回手塚賞に応募した『生物都市』

『生物都市』
’74年WJ31号(7月29日発売)に掲載され、集英社のコミックスでは『諸星大二郎自選短編集II 彼方より』などに収録。諸星先生が少年向けのマンガを描いたのはこれが初めてだった。

『生物都市』は、宇宙からの調査船の帰還をきっかけに起きる、生物と人工物が融合する謎の事件を描いた本格SF短編で、ストーリーの完成度の高さから「海外SFからの盗作ではないか?」という声も出たほどの傑作。新人らしからぬ斬新なストーリー発想力と、独自の描写力は高く評価され、手塚治虫先生、筒井康隆先生をはじめ、選考委員の満場一致で入選が決まったという。

手塚賞入選の2か月後、’74年WJ37号では『妖怪ハンター』シリーズの連載がスタート。「黒い探究者(掲載時タイトルは「異端の研究者」)」に始まる、考古学者・稗田礼二郎が体験する人知を超えた数々の事件は、人間社会のすぐ近くにある“異界”や“異形”を読者に感じさせ、以降も各誌で新エピソードが発表される人気シリーズとなった。

『妖怪ハンター』

『妖怪ハンター』
’74年WJ37~41号まで連載。以降も「週刊ヤングジャンプ」で稗田礼二郎や、彼の教え子たちが活躍する短編シリーズが発表されるなど、根強い人気を誇る。

『妖怪ハンター』での連載デビュー以降、先生はWJに『暗黒神話』、『孔子暗黒伝』の2つの連載作品を発表。以降も、集英社の「週刊ヤングジャンプ」や「月刊ウルトラジャンプ」で『妖怪ハンター』や多彩なSF短編を送り出すほか、他誌でも『マッドメン』、『西遊妖猿伝』、『栞と紙魚子』シリーズなどの名作を生み出した。そして現在も、とどまることなく精力的に作品を送り出し続けている。

WJ掲載作品から読み解く、諸星作品の魅力 <ストーリー編>

アラフォー・アラフィフ世代が少年~青年時代にリアルタイムで接し、衝撃を受けた諸星作品。40年以上のキャリアの中で、本格派のSFからスラップスティックなコメディまで、多彩なジャンルを手掛けてきた諸星先生だが、その真骨頂といえるのは、やはり神話や伝承をベースに“異界”や“怪異”を描いた作品だろう。WJで諸星先生が最初に連載した『妖怪ハンター』は、まさにその好例といえる。

『妖怪ハンター』

異端の考古学者、稗田礼二郎がフィールドワーク中に出会う事件を描く同シリーズは、日本各地の名もなき村や町を舞台に、さまざまな怪異をつづる1話完結形式の作品。ひなびた村の古墳、町中の観音堂、平家の落人が暮らす島など、日本のどこかにありそうな場所で、稗田は多彩な文献を提示しつつ、ときに科学的な視点も交えながら怪異の原因に迫っていく。

『妖怪ハンター』

イザナミとイザナギの第一子である水蛭子(ヒルコ)伝説をベースにした「黒い探求者」など、リアリティあふれる風景の中で、人智を超えた怪異が徐々に姿を明かしていくストーリーテリング手法は、他のオカルト作品とは一線を画す説得力を感じさせるもの。読者の恐怖心をじわりじわりと煽ってくる不思議な読後感は諸星作品全般に共通し、多くのファンを魅了する一因となっている。

『妖怪ハンター』

ほかにWJでは長編作品の『暗黒神話』(’76年)と『孔子暗黒伝』(’77年)が連載されている。読み切り形式ではない、1本の長編として描かれたこれらの作品では、縄文文化、日本神話、シャーマニズム、儒教、道教、仏教、インド神話などの要素が緻密に絡み合い、“諸星神話”とでもいうべき壮大なスケールの物語が展開。古代史に残された謎をストーリー全体に散りばめつつ話を広げ、ラストに向けて一気に収束させていくストーリー演出手法は、非常にダイナミック。どちらの作品も、発表から45年を過ぎた今読んでも決して古さを感じさせることのない傑作だ。

諸星大二郎先生

WJ掲載作品から読み解く諸星作品の魅力 <ビジュアル編>

諸星作品の魅力を語る上で、もうひとつ欠かせないのが、一見泥臭ささえ感じさせる“湿度”を持ったビジュアルだ。特に初期作品は、当時の諸星先生の「若さ」を感じる圧倒的な描きこみがなされており、現在の画風とはまた違った力強さがある。

人やモノの輪郭を構成する細かい線や、ひたすらに重ねられたカケアミなど、驚異的ともいえる密度で描かれたビジュアルは、たったひとコマの絵であっても“濃く”、“重い”。その描き込みによって、異界はもちろん、ごく普通の風景であっても、実際にどこかに実在しているかのような説得力を備えている。

諸星作品の魅力 <ビジュアル編>

さらに特筆すべきが、人智を超える“異形”たちのデザインだ。枯れ木の枝を繋いで岩を乗せたような、歪な形をした“比留子”、あどけない子供の顔を持つ巨大な海蛇の“あんとく様”、不定形の萎びた肉塊にも見える“視肉”と、ひと目見たら忘れられない“異形”たちは、パッと見て“怖い!”とは感じないのに、ひと目見たら忘れられないじっとりとした違和感を備えている。

あんとく様(『妖怪ハンター 地の巻』より)
あんとく様(『妖怪ハンター 地の巻』より)

“蝿声す邪ぶる神(さばえなすあらぶるかみ)”のように、人型をしながらも明白にヒトとは異なる“異形”の表現も諸星先生ならではで、その特異ともいえる想像力が存分に発揮されている部分といえるだろう。

視肉(『孔子暗黒伝』より) 蝿声す邪ぶる神(『妖怪ハンター 天の巻』より)
視肉(『孔子暗黒伝』より) 蝿声す邪ぶる神(『妖怪ハンター 天の巻』より)

“クリエイター好みのクリエイター”としての影響力

諸星先生の評価として見逃せないのが「クリエイター好みの作家」である点だ。同世代から、「週刊少年ジャンプ」を子供の頃に読んだ年下の世代まで、数々の著名クリエイターの中でも、その作品に注目し、影響を受けた存在として諸星先生を挙げる人が数多く存在する。

過去には手塚治虫先生、細野晴臣さん、高橋留美子先生、庵野秀明さんなど、そうそうたるクリエイターと諸星先生の対談が行われてきたが、その中では誰もが諸星作品が備えるオリジナリティあふれる表現や世界観を高く評価。作品の他メディア展開も数多く行われており、以下のようにゲーム、ラジオドラマ、実写映画、オリジナルアニメ、TVドラマなどの原作になっている。

<メディア化された諸星作品>
ゲーム   :’88年『暗黒神話 ヤマトタケル伝説』(ファミリーコンピュータ用ソフト)
ラジオドラマ:’89年『西遊妖猿伝』、’90年『続・西遊妖猿伝』、’00年『夢見る機械』
映画    :’91年『ヒルコ 妖怪ハンター』、’05年『奇談(妖怪ハンター 生命の樹原作)』、
’07年『壁男』
アニメ   :’90年『暗黒神話』(オリジナルビデオアニメ)
TVドラマ  :’91年、92年『世にも奇妙な物語(復讐クラブ、城)』(オムニバスTVドラマ)
’08年『栞と紙魚子の怪奇事件簿』(TVドラマ)
’16年『世にも奇妙な物語(夢見る機械)』(オムニバスTVドラマ)

デビュー時から現在まで、ストーリーも、ビジュアルも、ほかの誰にも真似ができない作品を送り出し続け、無数のファンからの支持を集める諸星先生。今回の記事で、その魅力が少しでも伝われば幸いだ。
次回後編では、発売を迎えた『暗黒神話』完全版について、関係者を交えてさらに詳しく紹介する予定なので、お楽しみに!

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