2017年3月28日(火)12時30分

決して色あせない心の景色――90年代初頭の若者たちをみずみずしく描いた武富智の連載デビュー作『キャラメラ』がデジタル版で復活!

3月といえば、みなさんは何を思い浮かべますか?

「卒業式」とか「ひな祭り」とか「ホワイトデー」とか――まあいろいろあると思いますけど、ぼくの場合は中学3年生のときの、やたらと退屈だった「春休み」の景色が今でも頭の片隅に残っています。

何があったわけでもないし、桜が咲いていたかさえ覚えてないんですが、記憶の中の色彩だけがどんどん膨らんでいって、歳をとるたびに鮮やかになっていくから不思議です。

きっとあの頃は自分が気づいていなかっただけで、毎日いろいろな事があったのだろうな――とか、そんなことを考えていたら、ふと頭をよぎったのが今日紹介する『キャラメラ』という漫画です。

武富智の連載デビュー作『キャラメラ』

2001年から「週刊ヤングジャンプ」で連載された武富智の連載デビュー作『キャラメラ』は、時代遅れのゲームセンターにたむろする若者たちを描いた青春偶像劇。ちょうど街のゲーセンから“平台”の筐体が姿を消しはじた90年代初頭――通信対戦格闘ゲームが全盛期を迎えようとしていた頃のお話です。

コミックスが絶版になってからずいぶん経っているので、もはや隠れた名作って感じなのですが、3月1日(水)からデジタル版の配信がスタートしています。

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■あらすじ
親戚の元に引き取られて生活していた中学生の数井は、自分の居場所を見失い、不良たちがたむろする地下のゲームセンター「キャラメル」に出入りするようになる。そこでアルバイトをしていたアッ子に恋をするものの、不良の先輩たちにパシリとして扱われるまま悶々とした日々を過ごし、やがてキャラメルは閉店してしまう。だが、その8年後――以前と同じ場所に、店構えを大きく変えてキャラメルが再オープン。21歳となった数井は、再びアッ子を探しはじめる。

『キャラメラ』1巻より
『キャラメラ』1巻より

作中では、寂しがり屋が集まる場所――その象徴として「キャラメル」というゲームセンターが描かれています。主人公の数井も、その憧れの女性であるアッ子も、幼い頃に両親と離別しています。もちろん地域や店舗によってまちまちでしょうけど、たしかに当時のゲームセンターには「避難所」のような側面もあったように思います。

先輩のパシリとして不良のたまり場に出入りするようになった数井ですが、本人が望めばいつでも抜け出せる状況だったことを考えれば、むしろ受け入れたのは先輩たちといえます。まあそこらへんの複雑な心理や関係は、本作を最後まで読んでいくと何となく見えてきたりするんですけどね。

『キャラメラ』1巻より
『キャラメラ』1巻より

そして数井にとって決して色あせない――いや、時が経つほどに鮮やかな色彩になるであろう出来事が起きます。

『キャラメラ』1巻より

しかし、このことが先輩たちにバレてしまい、徐々に嫌がらせをうけるようになります。問題を起こした数井は「出入り禁止」となり、アッ子もバイトをやめるハメに。さらにしばらくして「キャラメル」自体も閉店しちゃいます。

『キャラメラ』1巻より

――と、ここまでが第1話のストーリーなんですけど、つまるところこの武富作品の魅力は、キャラクターたちの“みずみずしい表情”にあると思っています。

武富先生の作品はどれも、緻密なキャラクター造形と繊細な心理描写の積みあげによって叙情的なシーンが作られていくのが特徴なのですが、連載デビュー作となる『キャラメラ』に関しては、どちらかというと直情的に青春や恋愛が描かれています。

「泣く」、「笑う」、「照れる」、「怒る」といった感情の起伏が、どこか唐突で青々しく、でもその不器用な感じが、青春や恋愛の“もどかしさ”や“甘酸っぱさ”として、読む側の心に強く響いてくるんですよね。

ちなみに、まだ武富先生の作品を読んだことのないって人には、様々な“作家衝動”が詰まった「短編集」から読むことをオススメしたいです。

武富智短編集 B SCENE
『武富智短編集 B SCENE』より

武富智短編集 C SCENE
『武富智短編集 C SCENE』より

短編集に描かれている主張やテーマは、後の連載作品でも扱われていたりするし、あるいは連作作品では描かれなかったナイーブな部分も、短編集では鮮明に描かれていたりします。

そんなわけで、武富作品を一通り読んだ後にもう一度『キャラメラ』を読んでみると、またべつの楽しみ方ができるかと思います。トイレで不器用な泣き方をするアッ子とか、13歳の数井がアッ子の手の震えを止める直前の表情とか、誰もいないゲームセンターを眺めている数井の瞳の奥に、自分なりの回想シーンを挟むことができるかもしれません。

『キャラメラ』1巻より
『キャラメラ』1巻より
『キャラメラ』3巻より

ちなみに短編集は、A~Cの3つのデジタル版が配信されています。ライトな「A」、シリアスな「B」、そして「週刊ヤングジャンプ増刊」等に掲載された作品に、単行本描き下ろしを加えた7つの短編を収録したのが「C」です。

また、心に深い傷を負った少年が合気道で成長していく『EVIL HEART』や、女癖の悪いイケメン男子と箱入り娘の純愛を描いた『この恋は実らない』のデジタル版も、すでに「ジャンプBOOKストア!」で配信されています。

春は出会いと別れの季節――。

桜のように、瞬く間に過ぎ去っていった「あの日」の感覚を、武富作品でもう一度セルフVR体験してみてはいかがですか?

「ジャンプBOOKストア!」で武富智作品を試し読み

武富智短編集 A SCENE
『武富智短編集 A SCENE』

武富智短編集 B SCENE
『武富智短編集 B SCENE』

武富智短編集 C SCENE
『武富智短編集 C SCENE』

この恋は実らない
『この恋は実らない』

EVIL HEART
『EVIL HEART』

The Mark of Watzel
『The Mark of Watzel』

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©武富智/集英社