2017年8月22日(火)17時00分

【レジェンド作レビュー】岩館真理子80年代作品をイッキに読んでみた。 ~遠い瞳の女の子たちは、何をみつめている?~

岩館真理子先生は、1976年週刊マーガレット秋の増刊号『落第します』でデビューして以降、マーガレット、ぶ~け、ヤングユーなどで活躍。1992年『うちのママが言うことには』で講談社漫画賞少女部門を受賞した、レジェンド的少女まんが家さんです。9月1日にリリースされる『森子物語』(1984年)で80年代の週刊マーガレット連載作がデジタル版でほぼ読めるようになることに合わせ、まだ岩館作品を読んだことがない方にも一度読んだ方にもおススメのコミックシンク流「80’s岩館作品の楽しみ方」をお届けいたします。

――さて、まずはこちらのコメントをお読みください。

“私の人生はほとんど岩館真理子さん、大島弓子さん、清原なつのさん、岩本ナオさんの絵で表現できるな、と思っています、個人的には。(よしもとばなな-2010.06.02)”
引用元:よしもとばなな公式サイト

小説家・よしもとばなな先生は『わたしたちができるまで』(岩館真理子・大島弓子・小椋冬美:著/角川文庫、1993)という3人のまんが家たちの自伝的単行本の中でも岩館先生に「50の質問」を投げかけている程のファン。確かによしもと作品は、岩館作品と似た清涼感を感じます。そしてその岩館先生には『まるでシャボン』というタイトルの短編があるのですが、カラーイラストもまるでシャボンのようにはかなげで、シャーベットのようにスッと消えてしまいそうな繊細さがあります。肌の色はほとんど白に近いピーチ色。

左『きみは3丁目の月』週刊マーガレット1985年37号 予告イラスト、右『おいしい関係』週刊マーガレット1984年17号扉イラスト
左『きみは3丁目の月』週刊マーガレット1985年37号 予告イラスト、右『おいしい関係』週刊マーガレット1984年17号扉イラスト (集英社文庫イラスト版 「岩館真理子イラストレーションズ」より)

彩度の抑えられたイラストはオシャレで大人っぽく…そして、みんな「遠くを見て」います。まんが本編中でも、やっぱり遠くを見ています。この距離感こそが岩館作品のシャボン感。…繊細で気弱そうに見えて、つかまえようとするとふわりとどこかに行ってしまいそうな彼女たちは、いわゆる「塩対応女子」です。今流行りの個性派アイドル系です。80年代といえばバブル全盛のイケイケゴーゴー時代でしたが、岩館作品ガールズは外車でウォーターフロントに誘っても、多分、来ません。逆を言えば、そんな彼女たちが見つめるものを心の底から理解できれば、いわば現代のアイドル枠に多い「シャボンガールズ」とも仲良くなれそうな気がしませんか? …ということで、80’s岩館作品の少女たちが<遠い瞳で何を見ていたか>検証してみましょう。

エントリーno.1 MC『4月の庭の子供たち』(1981年初版)より “八王子 時子”

MC『4月の庭の子供たち』(1981年初版)より

         
進学した高校のクラスに女子は2人だけ! もうひとりの女子・太陽のように明るく元気な孔璃子さんに憧れ、「どうにか変身したい」と考えた時子さん(マイペース)の「遠い目」

「どうにか変身したい」と考えた時子さん(マイペース)の「遠い目」

頬を赤らめ、「恋する乙女的な表情」を浮かべた後、

恋する乙女的な表情

しずしずと教師に近づいていき…

水をぶっかけてみました

バシャ―ン‼ 水をぶっかけてみました。

どうやら、憧れの孔璃子さんが以前、過ってコップの水をぶちまけてしまった際、クラスのみんなが大笑いしていたのを見た時子さん。「…水は笑いがとれる」と考えたようです。
しかし…水を教師にかけても笑いはとれませんでした。残念です。

エントリーno.2 MC『ガラスの花束にして』(1983年初版)より “小園 はじめ”

『ガラスの花束にして』(1983年初版)より

失恋旅行の旅先で、お金入りカバンをスられ、警察にご厄介になった後の「遠い目」

警察にご厄介になった後の「遠い目」
困ってしまう「遠い目」

巻き込まれた通りすがりのいい人的には、困ってしまう「遠い目」ですね。
さて、何を考えていたかというと…

お互い目を合わせていませんが…お互い相手のことは考えていたみたい

お互い目を合わせていませんが…お互い相手のことは考えていたみたい。
でも、「夢の中」ってどういうことかというと…。

失恋の傷いえぬはじめさんは、旅先で体調を崩し、倒れたところを彼に助けられました

失恋の傷いえぬはじめさんは、旅先で体調を崩し、倒れたところを彼に助けられました。(つまり、夢ではなく現実に出会っていたのです)彼は「妊婦」が産気づいたと思い、救急車を呼んだのですが……。

失恋の傷いえぬはじめさんは、旅先で体調を崩し、倒れたところを彼に助けられました

原因は、ベンピ。ただのベンピでした。(大事なことなので2度言う)ストレスはよくない。そして、もっとベンピはよくないですね。特に旅先ではダメ。ぜったい。快食快便を心がけていきましょう。

エントリーno.3 MC『きみは3丁目の月』(1988年初版)より “恩田 ルツ”

『きみは3丁目の月』(1988年初版)より

朝の支度でもたもたし遅刻したものの…何事もなかったように着席したルツの「遠い目」。

何事もなかったように着席したルツの「遠い目」。

若干涙が浮かぶその瞳の先には……

時間割表。

どきーん!時間割表。

ルツさん曰く「水と木は似ているから間違う」とのこと。(わかります?)…本日、水曜午後の5限被服の支度を忘れたルツさんは、あろうことか弟の彰くんにパシリを依頼します。

弟の彰くんにパシリを依頼します

彰君、いい子…しかし、さすが姉弟!! …一生懸命走りながら遠くを見つめていました。

一生懸命走りながら遠くを見つめていました

見つめるその先の丘の上には…

女の子がひとり落ちていました。

女の子がひとり落ちていました。

お嬢さん(日野みどりさん)も遠い目

そしてこちらのお嬢さん(日野みどりさん)も遠い目。心配して介抱しようとする彰に…

焼け死ぬ宣言

焼け死ぬ宣言。高校生にもなって…。彰もビックリして遠い目(2回目)です。

お姉さんも遠い目(2回目)。

お姉さんも遠い目(2回目)。

弟が裁縫箱の代わりに見知らぬ女子を担いできた

弟が裁縫箱の代わりに見知らぬ女子を担いできたんですから。しかし…そんな目で見る位なら、忘れ物取りにいきなさい、自分で。姉もたいがいですが、みどりもたいがいな甘えん坊。この先、彰少年の運命が思いやられます。

エントリーno.4 MC『まるでシャボン』((1987年初版)より“草子”と“世津子”

『まるでシャボン』((1987年初版)より

岩館作品的「モテガール」上位の草子さん。家政婦のアルバイト先での静かな「遠い目」

家政婦のアルバイト先での静かな「遠い目」

手に持っているのは…??

掃除機。10万円のツボを割りました。

掃除機。10万円のツボを割りました。そこにすかさず現れる坊ちゃま。

そこにすかさず現れる坊ちゃま。

過失に対する謝罪はなく、安定の塩対応…からの

恩着せついでに尻を触るのはよくない

びんた。―――まあ、恩着せついでに尻を触るのはよくないです。

一方、草子さんのいとこ、世津子さん。

草子さんのいとこ、世津子さん

草子さんと見た目はあまり変わりませんが、世津子さんはあまりモテない組です。
そんな草子さんが、大学の教室で、意図的に意思を殺したような「遠い目」。

そんな草子さんが、大学の教室で、意図的に意思を殺したような「遠い目」。
きらいな人にはこうなりますよね
きらいな人にはこうなりますよね

きらいな人にはこうなりますよね。…肩に載せられた手にもカチンと来ていますね。

一方、世津子さんが恋している相手(草子さんの婚約者でもある)に対しては…

世津子さんが恋している相手(草子さんの婚約者でもある)に対して

遠い目でも大分違います。
………違いすぎるっっ!!!!!(笑)

世津子さんが恋している相手(草子さんの婚約者でもある)に対して

いかがでしたでしょうか?
同じ「遠い目」でも結構違うもの。そして、表紙イメージとはうらはらに、塩対応女子たちはコミカルでキュートです。こうした岩館作品的ビミョーな女子の表情の違いを感じ取れるようになると、男性諸氏は女子にモテるようになると思います!(そう、岩館作品は男性の方にもおススメできる少女まんがです)。そして、初めての方も、そうでない方も、ビー玉のような瞳のキャラクターたちが見つめる「視線の行方」を意識して読むと、より岩館作品が楽しめます。岩館作品は、抑制された映画っぽいコマ割がとてもカッコいいのです。

映画っぽいコマ割

こんなに白いし、こんなにセリフが少ないのに、2人の心情がとても伝わってきます。
このコマ割を成立させるのが、ただ見つめるだけで思いを伝える「瞳」の力。
女の子の心情を探る瞳の旅へ、どうぞいってらっしゃいませ。

文:編集スタッフM

【おまけガイド】
冒頭に述べた通り「80年代の週刊マーガレットに掲載された岩館作品がデジタル化」されたのですが、どの作品がどの順番に発表されたのか、以下にご紹介しますね。

01.『ふたりの童話』(1)~(3)

岩館先生初の長期連載作。「おとめちっく」風の作画の、かわいらしい物語。中学生のしのぶは、転校先で子供のころ好きだった高志くんに再会し…。
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02.『となりの住人』

表題作他、78~79年に発表された『さたでぃ・ぱあく』、『約束』、『メモランダム』の4本の読み切りを収録。
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03.『チャイ夢』

80年に週マで連載された作品。家賃滞納でアパートを追い出された桃子は行き倒れに…。
そこに裕福そうなカメラマンが現れて!?
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04.『4月の庭の子供たち』

表題作(79年週マ21号)の他、オムニバスとなる「6月・雨降る街から」「8月・銀河にむけて」(ともに80年)と「鏡の中の華子へ」(79年)を収録。
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05.『乙女坂戦争』

81年週マ連載作。女子高が軒を連ねる乙女坂を舞台に、ひきこもりの柊子が自立を目指す。
「岩館ワールド」風の絵柄にこのあたりから変化していきます。
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06.『ふくれっつらのプリンセス』

81年週マ連載作。冒頭からフラれ、さらに様々な男性に心をかき乱されていく主人公の「はじめ」ちゃんが大人気に。試し読みはこちら

07.『ガラスの花束にして』(1)~(2)

81年週マ連載作。「ふくれっつら…」の続編として、はじめちゃんと妹が傷心旅行に向かうところから物語がスタート。試し読みはこちら

08.『えんじぇる』

82年週マ連載作。前の彼にフラれた勢いで結婚してしまったスウと周作。幼い娘の親権は?…という「結婚後」を描いた意欲作。試し読みはこちら

09.『1月にはChristmas』

83年週マ掲載の前後編+読み切り「赤い淡い夜が好き」を掲載。ちょっと頑固な女の子・瑞希のクリスマスをめぐる切なくシリアスなストーリー。試し読みはこちら

10.『森子物語』(1)~(3)

10.『森子物語』(1)~(3)

83年週マ連載。奔放で恋に生きる母と、幼い3人の弟妹の世話で所帯じみた暮らしの森子は、「別の世界」へ行くことを夢見て…。1巻には「えんじぇる」の続編も収録。※9月1日配信開始

11.『おいしい関係』(1)~(2)

84年週マ連載。高校3年のたまこと体育教師安藤のお気楽不倫関係と、そこに絡む個性的な人々のドラマと成長をスタイリッシュに描く。試し読みはこちら

12.『週末のメニュー』

84年連載。「おいしい関係」のたまこ、浩一、浩二が登場。表題作の他、読み切り「シルエット」(85年)短編収録。試し読みはこちら

13.『わたしが人魚になった日』

83~85年に描かれた短編集。表題作の他「街も星もきみも」「幾千夜」「センチメンタル リング」収録。試し読みはこちら

14.『遠い星を数えて』

86年週マ連載。中学2年生のふたみは悩めるお年頃。ある日親戚の庄助叔父さんがふたみを養女に欲しいといいだし…。試し読みはこちら

15.『まるでシャボン』(1)~(2)

86年連載。週マでの連載はこれが最後となる。マイペースな草子と気を遣いすぎな世津子をめぐる恋愛ドラマ試し読みはこちら

16.『きみは3丁目の月』

85年連載の表題作は、ぼ~っとした姉としっかり者の弟をめぐる不思議な恋愛模様。同時収録「静かな訪問者」(86年週マ)/「クリスマス★ホーリー」(88年ぶ~け)試し読みはこちら

17.『五番街を歩こう』

87年オムニバス掲載されたスタイリッシュな「五番街」シリーズに加え、週マでの最終読み切りとなる「月夜のつばめ」(88年)を収録。試し読みはこちら

18.『見上げてごらん』

2006年久方ぶりのYOU連載。背が低く純朴な北海道出身の大学生、千里子を中心にしたほんわかオムニバスストーリー。試し読みはこちら

…ということで、未読のアナタにおすすめなのは05「乙女坂戦争」あたりから、80年代を順番に読み進んでいただく方法。最新の「見上げてごらん」を読んでから、アーリーデイズ「ふたりの童話」を読むとより胸キュン感が増しますよ。お試しあれ。

関連情報/外部リンクはこちら

(C)岩館真理子/集英社